ロマンティカルスター





 仕事柄、夜に行動することが多い。
 場所、時間、ターゲット。状況は毎回異なっているものの、標的の命を奪うという仕事、出来るだけ人目につかないようにと考えれば、自ずと暗闇を選ぶことが多かった。とはいえ自分の能力があれば、辺りが明るくても人の目に触れずに任務を遂行するというのもそれほど難しいことではないのだが。


「ロロ」


 そしてそんなロロの任務に関係なくとも、は大抵ついてきた。ロロもも一人で充分すぎるほどの能力を持っているので、二人で組んでの任務は数えるほどしかなかったけれど、その数少ない中で歳の近い彼女とはすぐに打ち解けてしまった。


「お疲れさま、ケガしてない?」
「してないよ。見てたじゃないか」


 すぐそばで待っていたはずなのにそんなふうに気遣われるのを、他の誰かからだったら侮辱されたとでも考えてしまうかもしれないが、からだと素直に嬉しいと思える。自分の所属している機関において、彼女の存在は唯一心を許せるものだったから。
 しばらくは仕事を終えた場所から立ち去ることに専念し、やがて街の喧騒から離れた人気のない通りまで来ると、ようやく歩みを緩めた。静かな空気にふたつの足音がきれいに響く。ぽつんぽつん、と広い間隔で立っている街灯に照らされている道を二人だけで歩いていると遠くのほうから小さくサイレンの音が聞こえてくる。おそらくは先ほどの自分の仕事が原因だろう。それがこちらに近づいてくることはないので二人とも特に焦ることもなくのんびりとしたペースで歩いていた。任務のあとの気分というのはそのときによってまちまちだが、と一緒にいるときはひどく穏やかだ。たった今、誰かの命を奪ってきた意識なんてこれっぽっちもなくて、ただとりとめのない話をしながら自分たちの、家、を目指す。



「わたしさっきのおじさん、テレビで見たことあった」
「そうなの?有名人?」
「よくは知らないけど。でもあんなにボディガードがついてたんだし、けっこう重要人物だったんじゃないかな?」
「ふうん、」


 興味はなかった。すでにこの世にはいない人物なのだし、自分の頭の中には過去のターゲットの情報をしまっておくようなスペースもない。自分が大切に憶えておきたいのは、なにをすればが喜んで、どうすればが笑うのか、そんなことばかりだ。
 だから自分といるときは、とくにいまみたいに二人きりのときは、もう誰かもわからない男のことなんかじゃなくて、にも自分のことだけを考えていてほしい。いつからこんなことを思うようになったのだろう。誰にも言っていない。誰にも言いたくない。きっと誰も知らない、二人だけの気持ち。
 隣でふらふら揺れているの手をすくうように捕まえるとすこし驚いたようにロロを見上げ、首をかしげて笑った。


「ロロ、あの星座なんだったっけ?」
「うん、ねえ、


 身体をかがめて顔を近づければ、一瞬目を丸くして、けれどゆっくり目を閉じた。の唇はやわらかくて温かくていくら味わいつくしても足りなくて、そのときやっと自分の心臓が鼓動しているのだということに気がついて、ああ生きているんだとひどく実感する。僕はからっぽなやつだけど、を思う気持ちは溢れ出しそうなくらいに持ってるよ。だからどうか、いつでも僕の傍にいて。


 僕たちの熱、星だけは知ってた。












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(2008.6.5)