が本国に戻ってきたのはおよそ2週間ぶりだったが、スザクはが任務に発つ前から本国を離れていたので、実質彼と最後に会ったのは1ヶ月ほど前だったのかもしれない。かもしれない、とははよく憶えていないからであって。

「1ヶ月だよ。もっと正確に言おうか?29日と11時間37分。が帰ってきて真っ先に僕に会いに来てくれてたら、11時間と30分くらいになってたかもしれないけど」
「なんだ、なら1ヶ月じゃないね。1ヶ月未満。ちなみにすぐスザクに会えなかったのは、スザクが見当たらなかったからです」
「四捨五入するまでもなく1ヶ月だよ!あらかじめ今日帰ってくるって言っていてくれたら僕はきちんと迎えに行ったのに、そうしなかったのはだろ?」
「そんな、いちいち連絡なんか。それよりスザク、ちょっと、わき腹のあたり痛い。なにか当たってない?」

 本国に戻ってきたとはいえ、報告書の提出がまだ残っている。自室でその作成を始めていたところに、が戻ってきたと聞きつけたスザクが乗り込んできて、再会の抱擁とキスを数分、「仕事が進まない!」との逆鱗に触れてからは大人しく、座りながら作業をすると椅子の間に入り込んで後ろから抱きかかえるに留めていた。スザクがぴたりとくっついて離れないその腰の上付近に違和感をおぼえたは身をよじって距離をとったが、相手はすぐにその隙間を埋めてしまう。

「ああ、ごめん、ボタンかな。わざとじゃないよ?」
「わざとなんて思ってないけど、謝るくらいならちょっと離れてよ。くすぐったいし」

 言いながらお腹の前であわさったスザクの手を剥がそうとしたがこれっぽっちも動かず、手の甲をけっこうな力でつねってみたがぴくりともしない。むしろの肩にあごを乗せてさらに密接になろうとするスザクは本当にタチが悪いと思う。すこしだけ振り返って「スザク」と咎めるように名前を呼ぶと、ちらりと目が合った。

はどうしてそんなにクールなの?」
「へ?」

 離してほしい、という話をしていたのではなかっただろうか。疑問符をとばしながらスザクの目を見たままでいると、だって、と続けて相手はどこか不機嫌になった。同時にぐ、と身体に回された腕が強くなって、思わず腹筋に力をいれる。

「1ヶ月ぶりだよ。何度も言うけど。1ヶ月ぶりの再会なら、もっと感動的になってもいいと思うんだ」
「感動的?」
「会いたかったスザク!・・・とか」
「そんなジノみたいなこと」

 とりあえず返すものの、スザクの言いたいこともわかった。わかったけれども、それはひとえにスザクが悪いのだとは思う。どうして連絡くれなかったんだとか、クールすぎるとか、先ほどから一方的にを責めるような言葉を挟んできているが。肩口にあるスザクの頭にもたれかかると、素直に擦り寄ってきた。

「じゃあ聞くけど」
「? うん、なに?」
「わたしが帰ってきたとき、スザク、なにしてた?」
「ええっと・・・会議・・・の後だから・・・あ、ユフィとコーネリア様のお茶会に付き添ってたんだったかな」

 その状況をはジノから聞いていた。戻ってきたを一番に出迎えてくれたのが彼であり、スザクの姿が見えないんだけどどこにいるか知ってる?と訊ねたら今と同じ答えを返してくれたわけだ。思い出すともやもやして、はもう一度スザクの手の甲を、さっきよりもずっと強くつねりあげた。さすがに相手が悲鳴をあげる。

「いた、ちょっと、痛いって、」
「べつにっ、主様とその姉上様だし?そのお二人の護衛につくのはいつものことだけど?でもそんな状態のスザクにすぐに会いに行けなかったわたしの気持ちも察してほしいというかなんというかっ」

 の言葉にスザクはしばしぽかんとした。けれど甲をつねる指先の力がどんどんと強くなっていって、しまいには爪を立てるものだから我に返って、空いている手での攻撃をやめさせる。むすっと口を尖らせて顔をそむけるの耳元に口を寄せながら、そういうことなら、とスザクの機嫌は単純にもすぐに浮上した。

「来てくれてよかったのに」
「・・・・・」
「誰と一緒にいるとか、関係ないよ?」
「・・・そんなこと言ったって」
「関係ない」

 攻撃をとめたの手を握ったまままた身体に手を回し、体重をかけてにもたれかかる。一瞬う、とうめくような声を上げただけではされるがままに大人しく、それに気を良くしたスザクが無防備な首筋に唇を寄せた。ちゅう、と吸い付けばすぐにが身をすくめる。

「まっ、ちょっ、スザク!」
「・・・、ん、」
「しごとが!おわってないからっ」

 ばしん、とスザクの口元を叩くように抑えると相手は目を瞬かせ、次の瞬間、の手のひらをぬめりとした感触が這った。「むひゃあ!」反射的に手を離せば、待ち構えていたスザクの手にそれがあっさりと捕まってしまった。気づけば両腕とも掴まれていて、今さらながらに身の危険を感じる。

「報告書って明日まででしょ?」
「や、で、でも」
「大丈夫、明日に響くようにはしないから。ね?」

 ね?じゃない。ついでにいえば信用できない。なおのこと首を横に振るをしかしあっさりと無視してスザクは笑った。

「1ヶ月ぶりだよ?何度も言うけど」















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いろんないみでべたべたしたかった

(2008.7.21)