スザクが腕を包帯で吊った状態で登校してきたのは何日前だろうか。軍務によって利き腕を負傷してしまったらしい彼は「たいした怪我じゃないよ」と笑っていたけれど、ずっと側で付きっ切りにスザクの面倒をみているの過保護ぶりをみれば、やはりそれなりに大きな怪我だったのだろうということは容易に想像ができた。軍でも学校でもスザクと行動をともにできるは世話役を自ら名乗り出たのだという。登下校のときは荷物をもってやったり、授業中のノートをいつも以上に真剣にとっていたり(あとでスザクに見せるためだ)とかいがいしく彼の周りをちょこまかと動き回るの姿は、なぜだかミレイに大層気に入られていた。


「はい、スザク」

「うん」


 そしてそんな彼らはルルーシュの目の前で昼食をとっていた。最近は暖かな気候が続いていたが、スザクとはもっぱら生徒会室で昼休みを過ごしている。腕を怪我しているスザクへの配慮なのだろうが、ルルーシュはそれで正解だと心の底から思っていた。なにせ、


「ん、おいしい」

「よかった。えっと・・・次はなに食べる?」

「じゃあ、卵焼き」

「はいどうぞ」


 手にした箸で、弁当箱のなかの四角く作られた卵焼きをつまむと、はそれをスザクの目の前まで運んだ。なんの疑いもなく口を開くスザク。ごくごく自然なことのようにその開いた口に卵焼きを入れてやる。平たくいえばスザクはに食べさせてもらっているわけだ。


「・・・・・・」

「ルルーシュ?どうしたのさっきから、全然食べてないみたいだけど」


 口の中に入った卵を飲み込んでからこちらを向いて訊ねてくるスザクにあいまいに頷いてみせ、手元のパンを口に運ぶ。も「食欲ないの?」と心配してくれているようだが、その原因たちに気遣われたところであまりありがたくはないのだ。紙パックのジュースのストローに口をつけながら、とりあえず気になることを訊いてみた。


「・・・毎日、それか?」

「え?」

「どれ?」

「その・・・が手伝ってるのか?」

「え?」

「なにを?」

「・・・・・・食事だよ」


 わざとやっているのか。しぶしぶと告げるとはああ、と納得したように笑った。


「だってスザクほら、右手使えないから。パンとかだったら大丈夫だけど、それだけじゃ栄養も偏っちゃうでしょ?」

「それでが弁当まで作ってやってるのか?」

「スザクがそれがいいって・・・」

「いや、初めて食べときにほんとにおいしかったから、また食べたいなって言ったんだよ。そうしたら毎日作ってくれて」


 そういって屈託なく笑うスザクにいちおう下心的なものは感じられないが、だ。そもそもなぜ箸を使う。箸じゃなかったらスザクも自分で食べられるのではないだろうか。食事ひとつとってもここまで過保護だと他は一体どうしているんだか。・・・。・・・・・。


「・・・スザク」

「なに?」


 またにご飯を一口食べさせてもらっていた相手は口を動かしながらこちらを向く。が自分の食事も進めようと、持っていた弁当箱と箸から手を離したのを見て、良いタイミングだとばかりに手招きした。スザクは腰掛けていた椅子から立ち上がってルルーシュのすぐ側まで来る。


「お前、食事以外はどうしてるんだ」

「え?どうして?」

「・・・・・・に手伝ってもらってる、わけはないよな?」


 いくらなんでも、一緒に暮らしているわけでもないのに。ルルーシュの真剣な眼差しにスザクは一瞬のほうに目を向けてから返した。


「全部じゃないけど、お風呂なんかは・・・」

「風呂!?」


 ルルーシュが反射的に声を上げ、当然驚いたようにが振り返る。どうしたの、と訊ねてくるに手を振ってごまかして、ぐいとスザクの襟元を引いた。


「風呂、てスザク・・・!」

「ちょっと待ってよ、誤解してない?頭を洗ってもらってるだけだよ。さすがにそれ以上は僕だって遠慮するさ」

「そ、そうか。なにか引っかかるがまあいい。は毎日お前の部屋に行くのか?」

「ていうか今は僕の部屋に泊まって、」

「はわああ!?」


 幼なじみの驚きようにスザクは「言ってなかったっけ?」とのん気なものだ。ルルーシュは同じくのん気に弁当を食べていると目の前のスザクとを見比べながら「なん、おまえ、それは、それ・・・っ!」と意味のないことを言いながら相手を指差す。スザクはルルーシュの隣の椅子を引いて座った。


「仕方ないんだ、お風呂のこともそうだけど、がいろいろ手伝ってくれるってきかないから。朝ごはんのことから掃除に洗濯、着替えもそうだし・・・毎日を家まで送ったっていいけど、怪我人にそんなことさせられないって言い張って」


 だったら泊まっててもらったほうが良いなってね。上のひとの許可も取れたし。しれっと言いのけるスザクにしばし言葉を失っていたルルーシュは我に返って、幼なじみをじろりと見た。


「・・・お前、もう治ってる、てことはないよな」


 そのときのスザクの笑顔になにが込められているのか、聡明な彼にも完全には読み取ることができなかったけれど、「まさか」というスザクに対してこれだけは返しておいた。


「どうだか」














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(2008.7.5)