「連れてくると思ってたんだけどな」
後ろからそう言われて振り返り、自分よりも背の高いジノを気持ち見上げるようにした。なにを、と必要最低限な三文字だけで返せば、肩をすくめながら向こうも必要最低限に答える。
「」
「・・・ジノ、」
「え、どうしてそんな目むけるんだ。別におかしなことじゃないだろ?基本的にはサポート業務だがパイロットとしても腕は申し分ないし、もちろん人柄もよし、エリア11のことも詳しい。うってつけじゃないか」
「、・・・彼女には彼女の仕事があるし、戦力面ならラウンズが3人もいるんだ、問題ないだろう」
「そりゃあ、そういったら、そうだけど。けどそれだけじゃなくて、・・・なあスザク?」
意味ありげな瞳でこちらを見ながらわざとらしく間を空ける男に、スザクは内心の苛立ちを隠さなかった。エリア11、日本、にはつい先ほど到着したばかりで、すぐにでもすべきことは山ほどある。移動時間だって惜しいのだ、立ち止まって話しているような時間はない。だいたいを話題に出すこともなんとなく気に食わないので、ジノ、と強めに名前を呼んでやる。相手がすっと近づいた。
「だってお前、たまるだろ?」
ぽんと肩に手を置かれてにこりと微笑むジノをぽかんと見上げて数秒、意味を理解したスザクの耳元が一気に赤くなった。
「なっ、ジノきみ、なに言って」
「あ、だからってのことをそういう目で見てるわけじゃないからな。ただやっぱり恋人同士なら傍にいるのが一番良いんじゃないかと思うだけ」
「そんなっ、そん、そういう理由でなんか、ますます連れて行くわけにいかないだろ!」
普段なかなか見られないスザクの動揺ぶりが面白いのか、ジノはくつくつと笑うのをまったく隠そうとはしない。からかわれている、分かってはいるものの、一度赤くなった顔はすぐには元に戻ってくれなかった。すこし後ろを歩くアーニャにさりげなく目をやれば、こちらの話を聞いていないのか、それとも聞いていて興味がないのか、手元の端末ばかりをいじっている。それがスザクの恥ずかしさになぜか拍車をかけて、ごまかすように歩みを早くするが、すれ違った兵士が敬礼するのにも気づかないスザクの姿は、ただただジノの笑いを加速させるだけだった。
「そんなに気にすることか?黙って連れてきちゃえば分からないのに。さっきも言ったが、立場上は少しも不自然じゃないんだ」
「・・・だよ」
「え?」
さっさと前を行ってしかも小声では聞き取れない。すーざーく、わざと大声で呼んでやると、不機嫌そうに眉を寄せつつも耳が赤いので威厳のないナンバーセブンの顔がこちらを向いた。
「無理だよ」
「だから、どうして」
「・・・なんだか、任務に来ている感じがしなくなる。気が・・・抜けるというか・・・、とにかく、無理なんだ」
「でもスザク、たまったらどうす、」
「いいだろそんなことはっ」
最後は噛み付くように言って、ぷいと顔を前に戻してしまった。ジノより小柄な、まだ少年とも呼べる同僚はひどくまじめで、融通がきかない。そんな彼をやりこめられているのがひどく楽しくて、スザクを眺めながらにやにやと笑い、追い討ちをかけるかのように口を開いた。
「けど、は来たかったかもしれない。今朝だって見送りにも来てくれなかったし、もしかして怒ってるんじゃないのか?」
「・・・・・・いや、それは」
「ちがうよ」
今まで話に加わる素振りをみせなかったアーニャが突然割り込んできて、とっさに一回りも二回りも小さな彼女を見る。男性二人の視線を受けながらもまだ端末をいじり続けるナンバーシックスはちらりとスザクに視線を投げると、淡々とした声のままでさらりと告げた。
「昨夜スザクががんばりすぎたせいで、今朝立てなかっ」
「あああああああアーニャ!?」
「えっ、そうなの?なんだスザク、やることやってるんじゃないか!」
ばしばしばし、ナンバースリーに遠慮なく背中を叩かれるなか、どうしてきみがそんなこと知って!となんとかしぼり出したが、アーニャの関心はすでに端末の画面へと戻ってしまってまったく反応がなかった。まさかそんなことブログに書いてやしないだろうな、とてつもなく嫌な予感もしたが、まずは話を聞かせろといわんばかりに瞳を輝かせている後ろの男をなんとかしなければならない。どうしてこんなメンバーで来てしまったのだろう。もう、に会いたくなった。
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偉そうなスザクを書きたかったのに
(2008.5.21)