(旧サイトで書いていた学園パラレルの設定をもってきています。キラとアスランとニコルとさんは2年生、シンとレイは1年生で全員生徒会を務めております。もってきたのはあくまで設定のみです)






















オレンジ・ペコー









 放課後の生徒会室は、めずらしく静かだった。シンと、2年生の先輩であるニコル・アマルフィの姿だけ。シンは自分の仕事をしつつも、なんとなしにニコルへむかって話しかける言葉が見つからなくて、多少居心地の悪い思いをしていた。彼が嫌だとかそういうことではなくて、無言の空間を作り出してしまう自分が未熟に感じられるような、そんな気分。けれど、そもそもこの先輩とふたりきりになること自体が初めてといってもいいくらいだから、なにか話せといわれたって、どうしようもないというのが本音だった。


 くすり、と、不意に空気が動いた。驚いてシンが首をめぐらせると、斜め向かいの席にすわっていたニコルが、おかしそうに口元をほころばせているのだった。え、え、あの、頭は正直にパニックを起こす。


「すみません。・・・そんなに緊張しなくても良いのに、って思って」

「え、あ・・・お、俺、緊張して、ますか」

「少なくとも、僕から見れば」


 2年生の中では一番小柄で、物腰も柔らかで、素直に好感が持てる彼にそんなふうに笑われると、非常にいたたまれない。しかし他の先輩たち(といっても、キラかアスランかしかいないわけだけれども)といるときとは違うように思えるのも確かなので、シンはろくに反論もできなかった。


「・・・あの・・・」

「ああ、べつに怒ったりとか、そんなことはないですよ。ただ、おもしろいなあ、って思って」

「はあ・・・」


 ニコルの言うとおり、気分を害しているような様子はない。ただ、あまりよく把握していないこの先輩に対して、やっぱり安心はできなくて、シンは無理やり「ええと・・・」と言葉を探した。けれどシンがなにか言う前に、ニコルが先に口を開く。


「だってシンって、僕の前だと本当に大人しいでしょう。といるときはあんなに楽しそうにしてるのに」

「はあ、せんぱ・・・て、い、いやっ、そんなこと!」

「あれ、ばれてないって思ってました?」

「や、ばれてっていうか、ば・・・ええ!?」


 突然とびだしてきた名前にシンは目をまるくすると、真っ赤になってガタンとイスから立ち上がった。それを見てニコルはますますおかしそうに、今度は小さく声を立てて笑う。


「あははは、素直だなあ、シンは。嘘がつけないタイプですね、キラの言うとおり」

「に、ニコル先輩!」

「ごめんなさい。からかってるつもりはないんですけど。・・・って、この状況じゃ信じてもらえないか」


 そのとおりだ、明らかに遊ばれている。けれどニコルとこんなふうに話をしている自分が不思議でもあった。もっと、なんというか、まともなひとだと思っていたのに。生徒会は個性的なひとが多いから。
 シンの視線からそんな心のうちを読み取ったのか、ニコルはちいさく首をかしげて、うーん、とすこしだけ困ったように笑った。その顔はシンも見慣れている。キラとが、およそ実現不可能なプランの話で盛り上がって、暴走して、実行に移しだそうとするのをいち早く感じ取ったときなどはこんな表情をしているのだ。うん、そうだ、そういえば先輩の話だった。思い出してしまって、耳のあたりがじわじわ熱くなってくるのがわかった。どうして知ってるんだろう、誰にも言ったことのない想いなのに。


「ええと、要するに・・・。僕、シンとのこと応援してるんです」


 ニコルの言葉で我に返って、その突然の内容に目をまるくした。いきなりの話題をふられたと思ったら、応援してるとか、完全に把握されている。彼とこんな話をする日が来ようとは、いったい誰が予想しただろうか!


「て、あの、・・・え!?」

「僕は去年のも知ってますけど、なんていうのかな、けっこうシンのこと、気に入ってるみたいなので。脈ありなんじゃないかなあって」

「みゃ・・・」


 ぼんっと一気に顔を赤くして、それからシンはぶんぶんと手を振って慌てるように否定のポーズを示した。「そ、そん、そんなんじゃ」とにかく必死で口を動かそうとしているのがよくわかって、ニコルは微笑ましいなあとやっぱり笑ってしまうのだった。


「そん!なじゃないです、ほんと!ただその・・・っ、ただ、だから、先輩といると楽しいから、いやべつにそういう意味でじゃなくて、あの、」

「じゃあ嫌いなんですか?」

「嫌いじゃないですよ!・・・・・・だだだだから、そうじゃなくて・・・!」


 言えば言うほど自分の首を絞めていることに気付いたらしい、最終的にシンは頭を抱えてしまった。そんなシンを見て、後輩いじりはこれくらいにするかと考えるニコルに、その後輩はぼそりとちいさい声で訊ねてきた。


「・・・ですか」

「はい?」

「・・・みんな知ってるんですか、お・・・俺のその、」

「ああ、それは僕だけですよ。ちょっとそういう勘が働くので。安心してください、なんかものすごく疎いですから」


 答えに安心したのか、シンはすこし顔をあげて、それでも気まずそうにニコルを見る。そんな彼にほほえんで、ニコルはいくらか楽しそうに話しかけた。


「ほら、シンとは学年も違うし、生徒会くらいでしか会えないでしょう?だから協力しようかなって。のこと、僕にわかる範囲でなら、なんでも訊いてください」

「・・・え、あ・・・えと・・・」

「ちなみに今は、クラスで日直の仕事してると思いますよ。今日は回収したノートを一人で職員室まで運ばないといけないから、もう嫌になっちゃう、ってぼやいてました」

「・・・・・・・」


 シンの瞳がゆらいで、そわそわしだしたのが容易にわかった。それでもなかなか動こうとしない後輩の背中を押すつもりで、ニコルはもう一声かける。


「手伝ってきてあげてくれます?」

「え、あ、は・・・はい!」


 やっと立ち上がって教室を出て行くシンは、ニコルの前ではぎりぎりに保っていた表情をあっというまに緩ませていた。もうホントにかわいいなあ、と思いながら見送っていたが、その足音が遠ざかってからひょっこりと顔を出した人物がいた。


「キラ、やっぱりいたんですか」

「とっさに隠れたけどね。・・・ちょっとニコル、今のはルール違反じゃない?干渉しすぎだと思うけど」

「そうですか?でもこれくらいはいいかなって。だってどう考えても、僕のほうが分が悪い賭けですし」


 年が変わるまででしょう?とニコルが肩をすくめるのに、キラはそうそうと頷いた。シンのやりかけの仕事を脇に押しやって、ニコルの向かいの席に座る。


「年明けまでにシンとがくっつけばニコルの勝ち、そうじゃなければ僕の勝ち。最初はクリスマスまでって言ってたの、でもちゃんと延ばしたじゃないか」

「ほとんど変わらないですよ。とにかく、僕は引き続きシンに協力しますからね。そもそもキラと賭けをするのって、あんまり気が進まないんだから」

「だってアスランがのってくれなかったんだもん」


 思わぬ方向に話が進んでいるのを知らないのは、当の二人だけらしい。





































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今回のキラさまはライバルじゃないです 笑


(2007.1.3)