(なにを血迷ったか沖たんがザフトにいたらというパラレル)



















 ばたばたと廊下を走りながら視線をあちこちにめぐらせていたシンがぱっと目を見開いて「総悟!」と呼ぶと、数メートル離れた前を歩くキャラメル色の髪の毛がゆっくりとこちらを振り返る。真っ黒い瞳が遅れてシンを見据えると、一度まばたきしてから、いつもの通りに口を開いた。


「廊下は走るなって教わらなかったんですかィ」

「うっさいな、誰のせいだと思ってんだよ!探したぞ!」

「俺を?」

「プログラミングの再チェックとOSの調整と・・・いろいろ!午後一番に行くって言ってたじゃんか!総悟だけだぞ来てないの」


 肩で息をしながら言うシンを、総悟はめずらしいものでも見るかのように眺めた。シンがわざわざそんなことを、おまけに走ってまで探して言いにくるなんて。総悟の視線の意味を感じ取ったのか、シンはばつが悪そうに口をとがらせた。


「言っとくけど、心配してとかそういうんじゃないからな。ただ、が・・・」

?」

「総悟との機体、似てるじゃん。だから参考にしたいんだけど、総悟がいないと勝手にいじれないしって・・・とにかく困ってるんだよ、・・・、が」


 ぶつぶつと最後のほうは言いにくそうなのは、要するにのためにここへ来たのだと言っているのと同じことだからだろう。ふうん、ととりあえず返事をして格納庫方向へ足を進めだすと、シンも慌ててついてきた。

















「あっ、やっと来た!」


 到着してすぐ彼らを迎えたのはの大声だった。コクピットの中から身を乗り出すようにしているを見上げて、シンが「危ないって!」と声をかける。


「どこ行ってたの!お昼を皆で食べてそのままってつもりだったのに、いつまで経っても来ないんだから。シンありがとう、見つけてくれて」

「約束した覚えはねェんだけど」

「はいはい。それでちゃんとご飯食べたの?まさかとは思うけど、またあのフザケた格好で部屋で寝てたなんて言わないでよね」

「そのまさかでさァ」


 もうホントに総悟!とさらに顔を空中へ突き出すに「危ない」を連発しているシンの肩をぽんと叩くと、「どーも」と声をかけて総悟はリフトに乗り込んだ。そんな彼を見るとシンは言葉をとめて、しばらくためらうようにのいるコクピットを見上げてから、自身のモビルスーツへときびすを返す。次にシンの肩を叩いたのはルナマリアだった。


「えらいじゃない、シン。まさかあんたが総悟つれてくるなんて思わなかったわ」

「はあ?・・・どういう意味だよ、それ・・・」

「そのまんまだけど。いくらの頼みだからって、ね」


 含むように言って、ルナマリアも視線を上に向ける。ちょうど総悟がのいるコクピットへ乗り込むところだった。話す内容までは聞き取れないけれど、誰が見てもふたりの仲が良いことはすぐにわかるだろう。
 総悟とはアカデミーに入学した当初から知り合いだったそうだ。共に地球の小さな島国の出身で、先の大戦のころにプラントへと移住してきた、と境遇が似ていることで意気投合し、よくシンたちにはわからない、ふるさとの話に花を咲かせたりしている。そんなふたりを見るたびにシンはたとえようのない感情をおぼえることがしばしばだったが、どうしようもなかった。ただ、つらい、ということだけ。


 シンが総悟を探し回っている間に一通り自分のことはすませてしまったのか、ルナマリアはインパルスのコクピット前までついてきた。うっとおしいなあと思いつつ、追い払おうとしたって、てこでも動かないであろう事は目に見えている。シンは無視を決め込むことにして、黙ってシートに座った。


「仲良いわよねえ、あの2人。気が合うのかしら、やっぱり」

「・・・・・・」

「OSが似てるってことは、操縦のクセなんかも似てるってことだし。アカデミーのころから、あの2人でペア組むと強かったもんね」

「・・・ああもう、うるっさいな!なんなんだよさっきから、じゃますんな!」


 バーン、とキーボードをたたいてシンが大声を出すと、向こうのモビルスーツからと総悟まで顔を出した。「ご、ごめんなんでもない」とそちらには弁解したけれど、涼しい顔をしているルナマリアのことはきっちりと睨みつける。日ごろからあんたは目つきが悪いのよと説教してくるルナマリアだが、実際彼女はシンに睨まれても一向にひるまないらしい。


「あのねえ、シン、あんたのこと心配してやってんのよ」


 ちらりと後ろを振り返るルナマリアの視線の先には、モニタを覗きながら楽しそうに話していると総悟の姿がある。シンも一瞬だけ目をやって、すぐに逸らした。


「あたしは総悟のこと仲間として好きよ。性格は多少アレだけど、いいヤツだってことはよく知ってる。だからが総悟を選ぶとしたらそれはそれでちゃんと応援するけど、あんたがなーんもしないで、むしろ協力しちゃうような行動とるのはすっごいイヤ」

「・・・お前、それ、意味わかんないよ」


 指先でキーを叩きながら、シンは口だけで応える。そうは返しながらもルナマリアの言わんとするところがなんとなく理解できてしまうのがまた嫌で、ぶっきらぼうに言葉を続けた。


「俺がのことどう思って、総悟にどういう態度とって、そういうのお前がどうこういうモンじゃないだろ。面白がるのは勝手だけどな、いちいち俺に口出してくるなよ」

「なによ、その言い方。じゃあなんにもしないまま、のこと諦めちゃうんだ。それでいいのね?」

「・・・そんなこと言ってない」


 シンの態度にルナマリアは大きくため息をついて、それからかるく身を乗り出してきた。口元に手を添えて、内緒話でもするかのように口を開く。


「じゃあ、ひとつだけ教えてあげる。、あんたのこと好きかもしれないわよ」


 耳に入ってきたルナマリアの言葉を言葉通りに受け取るのにはすこし時間がかかった。固まった指先がいつの間にかキーを押し続けていたため、モニタに異様な文字列がならぶのをぼうっと見ながらぱしぱしと数回まばたきをして、やっとシンは「ええ!?」と叫んだ。


「な、なん、」

「かもしれない、だからね。あんた、総悟とのこと疑ってるから、の前だとちょっとよそよそしいじゃない。それで、なにかしちゃったのかなってさびしそーにしてたから」


 話が進むにつれて顔がじわじわと赤くなってくるのが自分でもわかった。嬉しいというよりは恥ずかしさのほうが上だ。自分ではうまく隠しているつもりだったのに、ルナマリアはともかく、本人にまで伝わってしまっていたなんて。それでもだからこそがそんなふうに自分を気にかけてくれていたということが、それだけでシンは嬉しかった。
 急におとなしくなって、キーボードを操作する手もとまってしまったシンを見て、ルナマリアは呆れながらも多少満足そうに笑みを浮かべる。見た目どおりにガンコなこの同僚をどうやってたきつけるか、べつに誰に頼まれたわけでもないのだが、なんとなく自分の使命のように感じてしまっているルナマリアにとって、まあまずまずな成果を出せたかもしれない。


「ああ、それと、もうひとつ」

「えっ、なに!?」

「総悟もけっこうあんたのこと好きだってさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」











りんごと蜂蜜





































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シンたんに同世代のライバルをつくりたかったんだけどレイだとイメージと違ったので沖たん友情出演
絡みも少ないうえ中途半端です、ね。


(2006.12.9)