!」


 行き交う兵士たちのざわめきや機械音になれた耳にも、その声は素直に飛び込んできた。振り返って赤い瞳をとらえたは、足をとめて声を返す。


「シン、」

、俺、最新機に決まった!」

「さいしん・・・?あ、ああ、モビルスーツ!え、こないだできたばっかりっていう、あの?でも何機かあったよね?」

「うん、インパルス。スタンダードだけど、換装とかできて・・・ああ、見たほうが早いよ!こっち!」


 言うとシンはの手をつかんで、来た方向へ走り出した。アカデミーを卒業して、晴れてパイロットになることが決定したたちは、順に自分の搭乗機が発表されつつあった。もっぱら注目は、軍が最近秘密裏に開発していたという最新鋭のモビルスーツのパイロットが誰になるか、という点で、まさか自分たち新米へその任がまわってくるなんて、考えもしていなかったのだが。


「わ、ちょっと、ひっぱらないで・・・って、確かまだあたしたちは入っちゃいけないんじゃ・・・」

「なに言ってんだよ、俺、パイロット!俺と一緒ならも入れるよ」


 シンはひどく嬉しそうな顔をしていた。足取りは軽いし、頬は上気している。昔、一度だけ話してくれた、弱い人たちを護るんだという決意。そんなシンに、インパルスという機体はとてもふさわしいものに思えた。卒業時の成績はレイのほうが上だったはずだけれど、きっと、シンのやる気がみとめられたんだ。


「あ、そうだ、は?機体、なんに決まったの?」

「・・・訊く?それ・・・。やっぱりザクウォーリアだった、ルナと同じ。一応パーソナルカラー塗装許可は出てるけど・・・」

「じゃあいいじゃん。何色にするか決めたの?」

「ううん、まだ。ルナは赤にするって言ってたけど、どうしようかなあ」

「ふうん。ならインパルスと同じにしなよ、白と青と赤」

「無理でしょ、3色なんて」


 そうかなあ?というシンは、さっきからずっと楽しそうだ。よくしゃべるし。確かに最新鋭のパイロットに任命されるなんて、新人にとってこれ以上ない名誉だから、シンの興奮は当然だろう。も自然と笑顔になって、問いかけた。


「レイたちは?もう知ってるの?」

「まだ、だと思う。俺はまだ言ってないし。に一番に言おうと思ったから」

「・・・あ、そうなんだ・・・」


 くすぐったいような気持ちになってがもごもごとつぶやくと、シンは握った手にすこし力をこめた。


「俺、ここまで来れたの、のおかげだと思ってるんだ、ホントに。・・・一人だったら絶対どっかでヤケになったりとか、したと思うんだけど、そういうときすごい、に励まされて」


 レイとかルナとかあいつらにももちろん、感謝してるけど。ドックに近づいてくると、シンは速度をゆるめて、手を引いたまま歩いていく。気恥ずかしくなって、は言った。


「そんなことないよ、あたしだって・・・レイだってルナだって、シンに支えてもらったこと、たくさんある」


 もうダメだ!もう無理!できっこないって!といいつつ遅くまで努力し続けるシンを何度も見て、そのたびに、諦めそうになる自分を叱咤してきた。軍という、甘えをまったく許されない環境のなかで、シンの存在は確実にを安心させるものをもっていた。


「シンがいなかったら、卒業する前にやめてたかもしれないもん。シンに会えてよかった」


 地下へ降りるエレベータを待ちながらが言うと、シンはわずかに耳元を赤くした。そ、そっか、と照れたようにちいさくつぶやく。


「でも俺も、に会えてよかったよ。俺、その・・・プラントへ来るか、すごく、迷ったんだけど」

「・・・・・・・」


 オーブ出身、それしかシンの過去については知らない。興味本位に聞けるようなものではないことは、なんとなくシンの雰囲気でわかったし、シンがパイロットを目指す気持ちが本物なのは、痛いほど伝わってきたから。
 到着したエレベータには、他に誰も乗っていなかった。ふたりきりの狭い空間はどこか窮屈のような、むしろ居心地がいいような、不思議な感覚をおぼえる。しばらく無言だったシンが、ぽつりと口を開いた。


「けど、これからだよな。俺たち、がんばらないといけないの。そりゃ、機体のことだって嬉しいけど、でも機体がどうとかじゃなくって・・・やっと力をもてるようになるんだって、それがすごく嬉しいんだ」


 エレベータのドアが開いた。冷えた空気が2人を包む。シンは再びの手を引くと、迷うことなく歩き出した。見張りらしき兵士はシンの顔を憶えていたようで、なんだまた見に来たのか、とすこし呆れたように言ってきた。


「ホラ、あれだよ」

「うわ・・・」


 初めて目にするそれは灰色に光っていた。これが戦場を駆けるときは、白く輝くのだろう。まるでシンの未来も輝くことを、約束されているかのように思えた。


「・・・がんばろうね、シン。シンとインパルスなら、絶対、できるよ」


 本当に、なんでもできそうな気がした。こんなに大きい力が、シンと共に戦ってくれるのだ。シンの願いが叶わないなんて、そんなこと、あるわけがない。


「うん」


 力強くうなずいたシンの赤い瞳をみて、ザクのパーソナルカラー、ルナにお願いして変えてもらえないかなあ、となんとなく思った。












はじまりの


























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若くってウブでまだなにも知らなかったシンたん


(2006.10.9)