Q.
「あ、あの、さん」
レクルームで休息をとっていたにどもりながら声をかけてきたのは、の後輩のシンだった。いま、いいですか?と遠慮がちに訊ねてくるので、うんいいよ、隣の席をすすめたが、シンは立ったままで話し始める。
「ええと、その・・・ちょっと、質問、が、あるんですけど」
「質問?プログラムに関して、とか?」
「あ、ち、ちがいます。そういうんじゃ、なくて・・・」
の前では大抵そうなのだけれど、今日のシンはさらに歯切れが悪い。は首をかしげて、シンの言葉を待った。
「うんと・・・さんは、あの、自分の知り合いがたとえば隊長になったりとかしたら、その人のことどう思います?」
「へ?」
シンの『質問』とやらがあまりに予想外だったので、は思わずぽかんとして、それから、まさか!と声をあげた。
「レイ?レイが隊長になるの!?」
「え?あ、や、そうじゃなくて!」
「ちがうの?・・・ああ、じゃあイザークのことだ?」
「イザー・・・?い、いえ、ジュール隊長とは・・・あ、まあいいや、はい、そんな感じで」
「イザークねえ・・・」
うーん、と、数ヶ月前に同期のイザークが隊長になることになったと知らせてきたときのことを思い返してみる。とりあえず思いついたことから口に出した。
「まあ、まず、すごいなあ、っていうのと・・・さすがイザークだなあ、とか、がんばってたしなあ、とか・・・ちょっと本音をいえば、多少悔しかったのもあるけど・・・」
「え、そ、それだけですか?」
「それだけってこともないと思う・・・ああ、あとは、」
「あとは!?」
「お給料あがるだろうから、いっぱいおごってもらおうと思った」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
はぁ、とシンは重たいため息をつく。そんなにヘンなこと言った?とが訊ねても、・・・いいえ、とでも残念そうにひとこと返すだけ。質問の意図もわからないし、シンの望む答えもわからないしで、もどうしたらいいのか図りかねていると、シンはぱっと顔をあげて、じゃあ!と意気込んできた。
「さんの友だちが、宝くじあてたらなんて言いますか!」
「宝くじ!?」
「宝くじです!」
シンどうしちゃったの、さっきから話に一貫性がないよ!?と言いたいことはたくさんあったが、シンがあまりにも真面目な顔で訊いてくるので、ここは先輩としてやはり真面目に答えるべきなのだろうかと、そう思っては口を開いた。
「や、やったねー!・・・かな・・・?」
「それで?」
「ええ?」
「やったね、で、そのあとは?」
「そ、そのあと・・・ケーキおごっ」
「そのあと!」
「・・・・・・・・・お、おめでとう、とか・・・?」
がそう言うと、シンがぴくりと反応したのがわかった。おや?と思う間に、シンはぐっと身を乗り出してくる。
「もういちどお願いします!」
「え、お、めでとう・・・といいます・・・」
おされ気味にもなんとか答えると、シンは目を輝かせて、はい!と笑顔になると、
「さん、ありがとうございました!」
「え・・・あ、うん・・・どういたしまして・・・?」
突如ご機嫌になったシンは、目的を果たせたのか、それじゃあ失礼します!といいながらレクルームを足取り軽く出て行った。なんだったんだろう・・・。いくら考えても、にはなにもわからなかった。
「・・・・・・ほんっと、しんじられない」
実はシンにも見つかることなく、廊下でいまのやり取りを盗み聞きしていたルナマリアは、思わずそうつぶやいた。ルナマリアは、今日がシンの誕生日で、シンがにどうしても祝ってほしいがために、いまの回りくどい質問をしに行ったことを知っている。
「素直に誕生日ですって言えばいいのに!」
ルナマリアの苛立ちとは裏腹に、その日シンは一日中、にやにやしてばかりいたという。
アンサー!
――――――――――
シンちゃんおたんじょうびおめでとうムッハー
(2006.9.1)