「あっ、せんぱーい!」
体育の授業が終わって、が友人たちと校舎の中に戻ろうと昇降口をくぐったところで、そんな明るい声が聞こえた。は足をとめて、声のしたほうへ視線を向ける。
「あー・・・あ、シンちゃん」
「お疲れさまです!体育だったんですか?」
「うん、バレーボール。あ、聞いて!わたし、1点入れたよ!」
「すげー!さすが!」
わたしなんか5点入れたぞ、との後ろで小さくつぶやくカガリの声が聞こえているのかいないのか、シンはにしか興味がないようだった。シンの後ろにはレイの姿もあるのだが、口を挟むことなく、ただ立っている。
「で、シンちゃんはなに?これから」
「あー・・・俺、つぎ、調理実習なんですよ。えーと・・・なんだっけ、なに作るんだっけ、レイ?」
「炊き込みご飯と筑前煮とプリンだ」
「そうそう、プリンですよ。ダッサイでしょ、男がプリンとか」
うんそうだね、と今度はキラが、こちらはあまり小さくない声で返した。シンは一瞬キラを睨んだが、が口を開いたので、すぐに視線を戻す。
「ええ、いいじゃない。わたしが食べたいよ、プリン」
「えっ、じゃあ俺、作ったの先輩に持ってきます!」
「いいの?シンちゃん、食べないの?」
「レイがどうせ食べないと思います。なあレイ、食べないだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・ああ」
「ほんと?うん、なら、待ってるね」
「はい!」
にっこりと、素直さ満点の笑顔でうなずいて、レイ行こう!とシンは廊下を駆けていった。も笑顔でシンが見えなくなるまで手を振っていたが、そんなに、カガリがあきれたように声をかける。
「まったく、あいつって、の前だけではかわいい後輩だな」
「え、そうかなあ。いつだってかわいいよ」
「ふふ、一年生のシン・アスカくんですわよね。キラの部活の後輩の」
ラクスが言って振り返ると、キラは不本意そうにうなずいた。
「シンって前まで、もっと無愛想っていうか、僕らが話しかけてもぜーんぜん相手にしなかったのに。なんでにはあんな、しっぽ振るんだろ」
「そういえば、なにかきっかけでもあったのか?あんなに親しくなるのに」
アスランに訊ねられて、はすこし考える素振りを見せてから
「部活中だったと思うんだけど、グラウンド脇の水道でひとりぽっつーんと足洗ってる子がいてね、なんとなく見てたら、ひざをけっこう派手にケガしてて・・・それで無理やり保健室につれてって、手当てに付き添って、その間にいろいろ話して仲良くなったって感じかな」
「んもう、だから僕はいつも言ってるんだ、は優しさを振りまきすぎだって。そのせいで、あーんな虫がひっかかったでしょ?」
「キラ、虫とかいうのやめてよ、シンちゃんに失礼だよ。・・・あ、ほら、着替える時間なくなっちゃう。急ごう」
にうながされてカガリとラクスが歩き始める。アスランもあとに続こうとしたが、キラがむすっとしたまま立っているので、仕方なく声をかけた。
「キラ、行かないのか」
「ねえアスラン、僕はさ、長期戦でいこうとしてたんだ」
「・・・なにを?」
「けど、あんなオジャマ虫がでてきたんじゃ、そうも言ってられないや。アスラン、こうなったら今夜決行するよ」
「・・・・・・・・・・・・よくわからないが・・・まあ、がんばれ」
本来ならば止めなければならなかったアスランは、その重大さに気付くことなく、キラにゴーサインを出してしまった。
「せんぱ」
「はい残念、いまは担任に呼ばれて出張中でーす。てか君も昼休みになって早々に訪ねてくるなんて、よっぽどヒマなんだね?」
「・・・げえ・・・」
に会いにわざわざ2年の教室まで足を運んだというのに、シンを出迎えたのは天敵、キラ・ヤマトだった。
「俺、先輩とプリン食べる約束しましたから。アンタ関係ないです」
「あれ、僕の気のせい?べつに一緒に食べるなんて話はしてなかったような」
「じゃあ俺職員室行こうっと、失礼しまー・・・」
「あ、言っとくけどそこじゃないよ。ちなみに僕は場所知ってるけど、でも君に教えるつもりないから」
「・・・・・・・」
ふふんと得意げにキラはシンを見下ろす。シンはしばらくその瞳をぎっと睨んでいたが、やがて視線をそらしてぽつりと
「・・・アンタなんか、1年以上も一緒にいんのに、全然相手にされてないクセして」
シンの言葉に、今度はキラがぎろりと睨む番だった。それから顔だけはにこりと笑って、でもどこかどす黒いオーラを放ちながらキラは言う。
「あのね、そっちこそまだと知り合ってたったの2週間だっけ?それでのなに気取り?えっらそうに」
「う、うるさいな!先輩は俺の天使だぞ、あのとき俺のケガを手当てして、そんで悩みとか聞いてもらったんだ!」
「それ言うならは僕の妖精だよ、フェアリーだよ。懐かしいなあ、去年の夏休みのときのの水着姿」
「み、みずぎ!?」
「あ、やめてくれる、へんな想像するの」
してねえよ!と教室のドアのところで怒鳴るシンと、その相手をしているキラを自分の席からながめて、ジュースのパックをいじりながらカガリはラクスにつぶやいた。
「あれじゃないか、あの二人、ほんとはけっこう相性良いと思うんだ」
「そうですわね、キラたちは絶対に認めないでしょうけど」
「あー、はやく戻ってこないかなあ、そしたらあいつら、なんて言うだろ」
キラたちはなにをあんなに言い合ってるんだ?と根本から理解していないアスランの問いは、まるっきり無視された。
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「あれ、ふたりとも、そんなところでどうしたの?」
「はだまってて!」
「先輩はだまってて!」
「え、えええええ・・・」
ヒートアップしすぎた二人はまで怒鳴りつけてしまい、あとでずどんと落ち込むのだった。
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わたしはアスランがとても好きです。
(2006.7.9)