※みんな二期年齢ですがロクオンはニールです。












「すみません、を見ませんでしたか」

 フェルトが休憩室に顔を出し、開口一番にそう言った。ちょうどその場にいたロックオンが、アレルヤとの会話を途切らせ、彼女のほうへと身体を向ける。アレルヤも同じように視線を向けた。

「いないのか?どこにも?」
「心当たりは見て回ったんですけど・・・」
「まだこの時間だし、部屋で寝てるんじゃない?」
「それが、声をかけても全く反応がなかったので、何かあったのかもって、ロックを解除したんです」
「え」
「だって中で倒れてたりしたら!普段はそんなことしません!・・・だけど、部屋には姿がなくて」

 口元に手をやりつぶやくフェルトは、言葉通りにあちこち探し回ったのだろう、心配そうに眉を寄せている。ロックオンはアレルヤと目を見合わせた。

「最後に見たのは?」

 フェルトと同じように考え込みながら、ロックオンが口を開く。

「昨日の夜です。食事を一緒にとって、私はプログラムの続きがあったのでその場で別れました」
「そのときは何か言ってたか?」
「・・・特には・・・。格納庫に寄ってから休むとは言っていましたけど、でも・・・」
「フェルト?」

 なにか言いかけうつむく彼女の様子をいぶかしみ、アレルヤが名前を呼んだ。フェルトは眉を寄せたまま視線をさまよわせる。

「様子が・・・いつもとすこし、違ったんです。落ち込んでるような・・・。気になったんですけど、何も言わないし、私も急いでいたので、明日聞いてみようと思いながらそのまま別れて・・・でももし昨夜のうちになにか、あったんなら」

 そこまで言うと、声を震わせ、まるで泣き出しそうに表情をゆがませる。ロックオンが立ち上がり、励ますようにその肩を叩いた。

「それで朝から探してるんだな。大丈夫だって、そう簡単にへこたれるヤツじゃないし、友達のお前が明日で平気だと思うくらいだったんなら尚更だ」
「そうだよ。・・・あれ?そういえば僕、昨日見たな、格納庫で」

 え、フェルトとロックオンが同時にアレルヤを見た。アレルヤはそれに、いや、と手を振ってみせる。

「話してはないよ、本当に見かけただけ。イアンさんと少し話して、すぐに出てっちゃったから」
の様子、どうでしたか・・・?」
「いつも通り・・・に見えたけど。あ、でもそう言われれば、少し元気はなかったかな・・・イアンさんになにか言われて、しゅんとしてた」
「機体に何かあったのか?」
「いえ、そういう話はなかったはずです。整備の報告でも異常なし、と」
「うーん・・・。昨日は気にならなかったからイアンさんにも特に聞かなかったんだけど、今からでも行きましょうか?何か分かるかもしれない」
「そう、ですね」

 アレルヤの提案にフェルトが答え、ロックオンも頷いた。広いとはいえ、限られた艦内だ。本当に何かあったなら誰かしらが気付くのではないかとも思うが、こうしてフェルトがずっと探しても姿が見当たらないというのは確かに引っかかる。とりあえずイアンのもとへ行ってみようと、三人で休憩室を後にした。

「・・・まさかとは、思うんだけどさ」

 途中、重々しくロックオンが口を開き、アレルヤとフェルトが彼を見る。いや、な?どこか慎重にこう続けた。

「イアンと少しだけ話してた、って言ったろ?それで落ち込んでたって」
「ええ」
「まさかさ、・・・イアンにふられた、とか、そういうんじゃない、よな?」
「ええっ、ちょ、なに言うんですか!」

 アレルヤが目を丸くし、フェルトは呆れたようにため息をつく。前を行くロックオンをわずかに睨みつけるようにした。

「イアンさんには奥さんもお子さんもいらっしゃるんですよ」
「好きになっちまったら関係ないだろ。フェルト、聞いてないのか?に好きなやついないのか、とか」
「そういう話はあまりしませんから。でも少なくとも、がイアンさんを・・・その、好きだとか・・・」
「あ」

 不意にアレルヤが声を上げ、それにつられて話を切りロックオンたちが目を向けると、通路の前方を行く刹那の姿があった。三人と同じ方向へ進んでいる刹那も、どうやら格納庫へと向かうらしい。ロックオンが声をかけると振り返って三人を見、なぜだか感心したように言った。

「珍しい組み合わせだな」
「ああ、まあな。そうだフェルト、刹那には聞いたのか?」
「あ、いえ。今日はまだ会ってなかったから」

 そうフェルトが首を振るのを見て、ロックオンは刹那に目を向ける。相手も訊ねるように見返してきた。

「お前、を見てないか?今朝からフェルトがずっと探してんだけど、どこにも見当たらないんだ」

 ?、そう繰り返して刹那がわずかではあるが目を見開く。アレルヤも続いて口を開いた。

「心当たりは一通り探したらしいんだけどね。それで昨日、イアンさんと話すのを見てたから、何か分かるかと思って今から聞きに」
「・・・なら、」
「えっ」

 思いがけない刹那の口ぶりに、後ろのほうにいたフェルトが瞬時に反応する。身を乗り出すように刹那の前に立った。

を見かけたの?」
「部屋で寝ている」
「え?だけど」

 さっき部屋に行ったときには、とフェルトがとまどいを見せる。中にまで入ったのだから、もしがそこで寝ていたのなら見逃すはずがない。

「もしかしてすれ違ったんじゃない?もう一度の部屋に、」
「いや、の部屋じゃなくて」
「ん?」
「・・・俺の、部屋で」
「・・・・・・んん?」

 数秒、ロックオンたち三人の動きが止まった。俯き気味の刹那の顔がわずかに赤くなるのをうけ、まず我に返ったのはロックオンだった。

「え、ちょ・・・え?・・・お前の部屋?」
「ああ」
「・・・なんで?」
「・・・・・・いや・・・その」

 言いよどみただ顔を赤くする刹那に、それでもいやいや、とロックオンはその可能性を否定した。まさか刹那とが、いやいや。ちらりと視線を向けたフェルトはただ驚きに目を丸くしぽかんとしている。指先でとん、と肩を叩き、おい、と小声で話しかけた。

「刹那のとこは探さなかったのか?」
「探すわけないじゃないですか・・・!まさかが刹那のところにいるだなんて、どうして思うんです?」
「・・・だよな。・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

 刹那はもちろん、フェルトもアレルヤも、どちらかといえば言葉少ななほうである。予想外の出来事は三人を当然ながら無口にさせ、その沈黙を非常に居心地悪く思うロックオンはがしがしと数回頭をかくと、刹那!と声を上げた。

「ひとつ聞こう。いつからだ」

 相手の目の前に人差し指を突きたてながら問えば、刹那はきょとん、と首をかしげた。なんだその反応、とロックオンは思う。

「だから、昨夜から・・・」
「違うっつーの、といつから付き合ってんだって聞いてるんだよ。フェルトも知らなかったんだよな?」
「あ・・・うん・・・」
「いつから・・・というなら、俺がここへ戻ってきたころ・・・だ、な」
「ぜ、全然知らなかったよ!そんな・・・どうして黙ってたんだい?」
が恥ずかしがって・・・俺もあえて言わなくても良いだろうと」
「・・・なんだよ、それ」

 言えよ、あえて。
 ロックオンが心からそう思う傍らで、フェルトはそういえば、と記憶を掘りおこしていた。四年前、刹那の行方が分からなくなってからのの様子はひどかった。食事は喉を通らず、目の下にはくっきりと隈ができ、一人になれば泣いていて。当時はフェルトもまた、仲間の消息を心配し眠れない夜もあったので、も同じなのだろうとなんとなしに考えていたのだが、おそらくはそれよりももっと強い気持ちだったのだろう。きっとあのころから、は刹那を思っていたのだ。恥ずかしさから、フェルトには言わなかったようだけれど。
 そしてなんとなく、刹那も同じだったのだろうと思えた。なんだろう、ひどく意外で、とても驚いたはずなのに、やけにしっくりくる。まるで前から知っていたような。もちろん知っていたら真っ先に刹那の部屋に探しに行ったが、それはそれだ。

「じゃあなんだ?昨日、元気なかったって言うじゃんか」
「ああ・・・昨日の朝、を怒らせた」
「じゃあイアンさんと話してたのって・・・」
「俺を探してたらしい。・・・謝りにきてくれた」

 言いながらそのときのことを思い出したのか、今度は嬉しさに頬を染める。つられたフェルトも照れと気まずさから、顔を俯かせて同じように耳元を赤くする。あーはいはいそのまま盛り上がっちゃったわけね!とロックオンが投げやり気味に言うのに、アレルヤが慌てたように間に入った。

「ああ、ええ、と・・・。とりあえず、フェルト。刹那の部屋にいるみたいだし、会いに行ったら?」
「・・・そうだな。の口からも聞かねえと、いまいち納得が・・・」
「あ、いや、ちょっと待ってくれ」

 ロックオンの言葉を遮るように刹那が口を開き、三人の視線が集まる。

「その・・・昨夜は無理をさせたから、まだ寝かせてやりたい」
「・・・・・・ああ・・・ごめん」

 数十分後、ようやく顔を出したが質問攻めにあったのは言うまでもない。














――――――――――
俺の部屋で、て言わせたかっただけです 笑

(2009.2.12)