にしてみれば、以前のようにただ話をしているだけのつもりだったろう。
 離れていた四年間に起こった出来事はとても数分で語りつくせるほどのものではない。刹那が仲間のもとに戻り、プトレマイオスの中にあてがわれた部屋へ行こうとすると当然のようについてきた。刹那のベッドは、かつてもこの部屋にいるときのの定位置で、そこに以前と同じように腰掛けると、会えなかった時間を取り戻すかのように喋り続けた。四年間ソレスタルビーイング再建に努めてきたティエリアのこと、頼りがいのある女性に成長したフェルトのこと、負傷したラッセを見つけたときのこと、変わらずに皆を支えてくれるイアンのことに、その娘であるミレイナが仲間に加わったときのこと。の話題は尽きることなく、やがてそれは刹那のことへと移っていった。

「刹那も、変わったね」

 隣に座る刹那の手をとって、しみじみと撫ぜる。その動作に頭のどこかがじりじりと、追い立てられるように痛んだ。

「男のひとになった」

 に触れられているところが熱をもって、全身を蝕んでいくように思えた。じりじりとした痛みはいつの間にか、まるで警鐘のようにがんがんと鳴り響いている。それを鎮める方法を今の刹那は知っていた。

「せつ、?」

 にしてみれば、以前のようにただ話をしているだけのつもりだったろう。けれどその口を刹那は自分のそれでふさいだ。初めはただ触れるだけ、相手の抵抗がないのを確かめて(実際はただ驚きに固まっているだけだったが)、さらに深くした。こちらの手を撫でていたの手をきつく掴みかえし、むさぼるようなキスに思わずが口をわずかに開いたその隙間から舌をねじ込み、絡めて吸いつく。どのくらいそうしていたのか、苦しげなの呼吸に気が付いたところでようやく口を離した。

「はっ、・・・せ、つな・・・」

 荒い息の合間に声を出すの瞳が潤んでいるのに、刹那は少しの罪悪感も感じたが、それ以上の欲求に襲われた。室内の温度もいくらか上がったのではないだろうか。あれだけ熱い吐息と唾液を交換したというのにまだ足りない、のすべてがほしい。掴んだままの手を引いて再び顔を寄せると、慌てたようにが言った。

「刹那!ちょっと、ちょっと待って、」
「・・・・・・」
「ど・・・どうしてこ、こんな、こと」

 無言で見つめる刹那の視線にめげることなく言いながらも、その顔が赤く染まっていく。が離れていかないように引き寄せる力はそのままで、答えた。

「したいと思ったからだ」
「しっ!・・・」
「嫌だったか」
「い、いや・・・とかじゃ・・・・・・ないけど・・・」

 ぼそぼそとつぶやくような言葉は刹那を否定するものではないので、その手を握り締める力をゆるめた。無意識のうちに緊張していたのか、いつの間にかひそめていた息をゆっくりと吐き出し、いくらか冷静になってを見る。もちろん彼女のほうは冷静になんてなれるわけがなく、「したい、て、そんな」なんてぶつぶつ言いながら顔を赤くしたり眉をよせたり下げたりと忙しなく動いていて、それが刹那にはなんだかおかしかった。思わず口元をゆるめた刹那の気配に気が付いたのかは顔を上げると、笑む彼を見てまたさらに顔を赤くし、睨みつけた。

「・・・からかってる?」
「まさか。本気だ。・・・信じられないか?」
「だ、・・・て刹那、そ、そういうこと、あんまりその、しなかったじゃない。・・・前は」

 顔をうつむかせるの言いたいことはわかる。四年前。たしかにこんなふうに、熱を持って彼女に触れることはそうなかった。けれども、そう、四年ぶり、なのだ。
 四年のあいだにのことを考えなかったわけではない。会いたいとも思っていた。けれど会いたいと思う彼女の姿は、その歳月によって少女から女性のそれへと変わっていた。わずかに長くなった髪の毛が踊るたび、体のラインがあのころよりもしなやかな曲線を描くたび、頭の中か、胸の奥か、それとももっと別のところか、とにかく体のどこかがじりじり、しびれるように熱をおびる。鎮められるのは考えるまでもなく、しかいなかった。

 ふと目をやると、相変わらず握ったままのの手が居心地悪そうにもぞもぞ動いていた。こんなに長いことつないでいることも、以前はなかったかもしれない。親指の先でその手を撫ぜてやると、びくりと反応した。

「さっき触ったろう、俺の手を」
「、え、・・・うん、そう、だけど」
「あれで、すこし・・・」

 そこで刹那は言いよどみ、ここへきて初めてためらいをみせた。しかしそれもほんの一瞬で、すぐにまたと目線を合わせる。さっきからずっとうるさく動いているの心臓が、それでまたどきり、と鳴った。

「・・・すこし、興奮した」
「!?」
のせいだ」
「ええ!?」

 驚きに身を引くをつかまえたまま、その額に唇を落とす。そこから感じる体温はやわらかくとろけるようで、は心地よさに目を細めながらも最後の抵抗とばかりに口を尖らせた。

「・・・刹那、変わりすぎ」

 お互いさまだ、の言葉は口付けの中に消えた。












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(2008.11.17)