「姉上。そろそろ誕生日ですけど、何か欲しいものありますか?」
武州にいるミツバと定期的にしている電話の中で、ふと総悟が言った。今日は隊士たちもほとんど出払っているのか屯所内には人気がなく、総悟は自室の前、庭に面する廊下に出て座り込んでいる。普段なら誰かに見られたり聞かれたりするのが嫌だからとそんなことはしないのだけれど、今日の気候のよさは自然と総悟を部屋の外へと向かわせたのだった。
「あら、そう言われれば、もうすぐなのね。いいのよ総ちゃん、気持ちだけで」
「たまには姉孝行させてくだせェ。特になければ俺が勝手に選んで贈るだけでさァ」
「ふふ。その強引さ、誰に似たのかしら。じゃあ、そうねえ・・・。・・・あ、」
「なんですかィ」
何かを思いついた様子の姉に、総悟もなんとなしに身を乗り出す。ミツバが電話の向こうでまたふふ、と笑った。
「総ちゃん、私、妹がほしいわ」
「・・・・・はい?」
全く思いがけない答えに、たっぷりと間を取ってからそれだけ返した。両親はすでに他界している。姉の言っている意味がわからなくて、総悟はゆっくりと繰り返してみた。
「・・・妹、ですか?」
「そうよ。もちろん総ちゃんも大事な弟だけど、姉妹にもちょっと憧れてたの。一緒に買い物に行ったりするのは、女同士のほうが都合が良かったりするでしょ?」
「はぁ・・・」
本気なのか冗談なのかいまいち掴みかねる様子のミツバに困惑して総悟がそう言えば、姉は「それで、総ちゃん」と続ける。
「ちゃんはいつ妹になってくれるの?」
「・・・・・・姉上」
ようやくミツバの言わんとするところを読み取った総悟は、ため息をつきながら立ち上がった。背後の障子を開けて自室に入ると、ぴったりとそれを閉める。いくら屯所に人気がないとはいえ、これは他のやつらには絶対に聞かせられない。
「前にも言ったじゃないですかィ、あいつとはそういうんじゃなくて」
「ごまかしたってダメよ、総ちゃん。いつもあんなにたくさんちゃんのお話してくれるじゃない」
ちゃん、なんて呼んでいるが、ミツバと、総悟の部下であるとは実際に会ったことはない。こうして総悟との電話のなかで話題に上るの存在をミツバが憶えてしまい、おまけになぜだかすっかり気に入ってしまい、ときたまこんな発言が飛び出すのだった。
「ごまかすもなにも、普通でさァ。何度も言いますけどはただの部下で、」
「だって、他の部下の方たちのお話はしないでしょう?」
「のやつが一番ネタ持ってんでさァ。毎日アホなことばっかりやってっから」
座布団の上に座って、傍らの机に肘をつきながら答えた。未だに、ミツバからのこの手の話題にどう返すかを決めかねている総悟は、困惑あらわにがしがしと頭をかく。
「だからそれ以上の深い意味なんかはないんです、姉上には申し訳ねェですけど」
「そう?でもね、総ちゃんからちゃんの話がたくさん出てくるってことは、総ちゃんがそれだけちゃんを見てるってことになると思うの」
「姉上、」
「それに、ちゃんのことを話してるときの総ちゃん、本当に楽しそうだし・・・」
「・・・・・」
「照れくさいのも分かるけど、素直になるのは恥ずかしいことじゃないのよ。ね?総ちゃん」
耳に心地よい姉の声は昔から少しも変わらず、そしてそんな姉が誰よりも自分を理解してくれていることを総悟はよく知っていた。まだ自分でも認めがたい気持ちがどこかにあるのだけれど、ミツバの前にはそれも通用しないらしい。
「・・・・・」
「総ちゃん?」
「・・・姉上、」
「ん?」
「プレゼント、・・・がんばってみます。・・・多分」
「まあ、嬉しい」
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リハビリ的な・・・
(2009.6.10)