「、光のこと好きでしょ」
決して口にしたいわけではない言葉を、けれどあっさりと僕の口は告げた。目の前にいる幼なじみは数回瞬きをして、それから頬をわずかに赤くする。
「え・・・え、わ、わかっちゃうの?」
「僕にはね。光は気付いてないよ、あいつだって、自分のことには疎いんだ」
僕らの所属している部の長をバカにはしつつ、でも光もどこか彼に似たところがある。けれど僕自身にはそんなことはないと思うので、それは言い換えれば僕らの個性なのだろう。
はすこし安心したように胸をなでおろして、僕を見た。
「なんだろう、馨に隠し事ってできないよね。昔からそうだけど。光はすぐにだませるのに」
そう言ってはちいさく笑った。それはつまり、はだませるほうが好みだってことなのだろうか。ふと、僕らがもっと幼い頃、僕らに想いを告げてきた女子たちへ放った言葉がよみがえる。
光じゃなくて僕にしなよ、という。
あれをにも言ってみたら、そしたら僕にも可能性が出てくるだろうか。そんなことをすこしだけ考えて、自分ですぐに否定した。あれは、僕と光の区別がついていなかったであろう彼女らへの言葉だったからこそ効果があったのであって、光は、馨は、ときちんと主語をわけてくれるにとっては、なんの意味もなさないに決まっている。が僕らを別個の存在として認めてくれるのが嬉しいのに、自分でそれを否定しにいくのはおかしな話だ。
「・・・のことなら、なんでもわかるよ」
ささやかな抵抗だった。をいちばんに理解している僕を選んだほうが、きっと幸せになれるのだと、そういうつもりで。
「うん、ありがとう」
そう笑顔で答えてきたに、それ以上なにが言えるだろう。は、僕らの個性はしっかり捉えていても、僕のことなんて全然理解しちゃいない。
そしてそんな僕は、を理解しすぎている。だから、光を好きだと思うに、僕はが好きなんだと、告げることはただの一度もできなかった。光と僕とと、一緒にいた時間はおなじはずなのに、どこで違ってきちゃったんだ。
「でも馨、ぜったい光には言わないでね。その・・・やっぱりこういうのは、自分でちゃんと、したいし」
「・・・・・うん」
言うわけないじゃないか、僕はそんなにお人好しじゃない。
足りなかったものは
08.一番の理解者が、必ずしも愛されるとは限らない
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カオちゃんが好きすぎての産物
(2006.10.4)