苛立ちの理由
01.悪戯
先ほどからの苛立ちの原因を、獄寺はなかなか探れずにいた。放課後の帰り道、彼が尊敬してやまないボンゴレ10代目とせっかく一緒だというのに、話の内容もろくに頭に入ってこない。目線は彼らの前をいく、山本と、そしての姿ばかりを追っていた。
「なあ、じゃあ獄寺ってさあ、どんなガキだったんだ?」
「すんごいいじっぱり。えらそうだし。二言目には『お前フザケんな!』」
「あはははは!全然変わってねえじゃん」
「聞こえてんだよ!」
の話がほとんど自分の悪口ばかりだから、こんなにもいらいらするのだろうか。確かに自分のことをネタにされて、気分の良いやつはそうそういないと思う。獄寺が怒鳴ったことで、は不満げに後ろを振り返った。
「せっかく武くんが隼人のことを知りたがってくれてるのに。隼人はもっと友だちを大事にしないとだめだよ」
「お前は俺をバカにしてるだけじゃねーか!」
「そんなことないってば。隼人のためを思ってこその行動だから」
「ホントお前口だけだよな」
獄寺の隣で綱吉が、くすりと小さく笑った。それに気付いた獄寺はまたもやを怒鳴りつける。
「ホラ見ろ!お前のせいで10代目に笑われただろ!」
「ええー?ちがうよね綱吉くん、隼人がヘンだから笑ったんでしょ?」
「お前フザケんな!」
「あっはは、ホントに言ったよ!」
ごめんって獄寺くん、そうじゃなくって。綱吉が慌ててと獄寺の間に割って入って、山本もそんなに笑っちゃだめだよ、とフォローする。綱吉の仲介で獄寺はあっさりとおとなしくなり、そんな彼にがちいさく「犬」と言ったのは幸いにも誰にも聞こえていなかった。
「いや、なんていうかね、楽しそうだなーって思って。幼なじみって俺、いないし。うらやましいよ」
「そうかなあ・・・あ、でも武くんが幼なじみだったら、たしかに楽しいかも。優しいしね」
「俺もが幼なじみだったらよかったなー、おもしれーし」
と山本がにこにこしながらそんなことを言い合っていると、おい、と彼らよりも一段低い声が割り込んできた。声の主はあきらかにスモーキン・ボムその人である。
そんな獄寺の苛立ちは、先ほどよりもずっと、大きくなっていた。
「、オメーは誰の幼なじみなんだ」
「え、は、隼人だけど・・・」
「だったら山本がどうとか、気色悪いこと言うんじゃねェよ。大体そんなこと言ったって仕方ねえだろ、バカかお前」
「は・・・え、うん、はい・・・?」
突然不機嫌になった獄寺は、言うだけ言うとさっさと前に立って歩き出してしまう。首をかしげるの隣で、同じようにきょとんとしていた綱吉は、へえー、と意外そうな声をあげた。
「なに?」
「獄寺くんも、あんなふうにヤキモチ焼くことあるんだなーって。だって今のって、そうでしょ?」
「え?」
「あ、だよな、やっぱそうだよな。なーんか、愛されてんじゃん」
「あい・・・!?」
へ、ヘンなこと言わないでよ!と綱吉と山本のもとを離れようと駆け出して、けれどそのの足はすぐにゆるゆると遅くなってしまった。彼らから距離をおこうと思うと、どうしても前を行く獄寺のそばへ行くのが自然で、はあいまいに獄寺の斜め後ろ付近まで歩いていく。
「・・・なんだよ、理想の幼なじみ様はどうした?」
「いや・・・ヘンなこと言い出すから・・・」
「ふーん」
苛立ちはすこしばかり収まっていた。獄寺がそのまま黙っていると、が言いにくそうに
「あの・・・べつに、隼人が幼なじみだからって、いやだって思ったことはないからね?」
「・・・わかってっけど」
あ、そう・・・ならいいや、は明るく言って、それからもうその話はしなかった。今日の授業のこととか、宿題のこととか、明日のこととか、そんなことを話し出すにあわせて、獄寺の表情もだんだん溶けてくる。そんなふたりを後ろから見て、綱吉は山本にささやいた。
「獄寺くんて、ちゃんの前だと雰囲気変わるよね、やっぱり」
「だな、愛されてるよなー」
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なにが悪戯なのかこっちがききたいぜ
(2006.10.4)