「だっからなんでお前はそう素直じゃないんだ!今回は大人しく待ってろって言ってるだけだろ?」
「いやです!置いていかれる理由がありません!前回だって立派に任務遂行できたってみんなに褒めてもらったし、」
「・・・そこでその足のケガつくったの誰だよ」
「ボスはわたしの活躍を見てないからそんなことばっかり言うんです。やつらが取引が完了したとほっと気を抜いたその瞬間、ばっと乗り込んでかき乱す!」
「だーかーらー俺はそんな危ない方法教えたことないっての!とにかくだめなものはだめだ、今日は寝てろ!これはボス命令だからな、守れないなら一ヶ月間絶対外出禁止令だ」
「・・・!ひどい!卑怯!横暴!へなちょこ!えっとそれから・・・パワハラ?」
「どこで憶えてくるんだよそういうの・・・。もう俺行くからな、誰かコイツのこと見張っててくれ」
「あっ、まだ話は終わってな・・・ボス!」
の声を背中で受けつつもきっぱり無視して、ディーノはそのまま屋敷の玄関をくぐった。うしろでがぎゃんぎゃんなにか言うのが聞こえたが、そのまま用意されている車に乗り込む。彼にしてはめずらしく本気で怒っているようなので、あとから続けて車内へ入ってきたロマーリオは一瞬意外そうに目をまるくした。
「驚いたな。カンカンじゃねえか、ボス」
「・・・当たり前だろ。もういい加減あいつにはうんざりだ。全然ひとの言うこと聞かないし」
はああ、苦々しげに息を吐き出す上司をみて、ロマーリオはなんとなしに玄関のほうを振り返る。ばたん!と大きな音がして、車が動き出すと同時に屋敷からが飛び出してきた。
『・・・・・・!!』
「のやつなんか言ってるぞ、よく聞こえないけど」
「放っとけ。どうせへなちょことか言ってるんだ、もう知らねえ」
ぷいとそっぽを向いてしまったディーノと、部下たちに押さえつけられながらも何事かわめいているとを見比べて、ロマーリオは苦笑する。ふたりの喧嘩は今に始まったことではないし、案外しばらくたつとけろっとしているのだ。今回はディーノのお怒りもだいぶ強いようではあるけれども。そんなわけでいち部下としてはそれほど心配していないので、ロマーリオはのん気に内ポケットからキャラメルの包みを取り出した。
「ボスもどうだい、イライラしたときには甘いものらしいぜ」
「・・・お前なあ・・・これからってときに・・・。甘いものなんか好きだったっけ?」
「好きでも嫌いでもないけどな、が持ってたほうがいいって。はは、あいつも今ごろドカ食いだな」
「・・・・・・・・・」
窓のふちに肘をついた状態でぶっすりと不機嫌そうに口をむすんだディーノは、ロマーリオがキャラメルを一粒食べ終わる間じっと窓の外をただ眺めて黙っていた。食べないのかなあ、とディーノにも差し出そうかどうか考えていると、やっとぽつりと口を開く。
「俺、心臓とまるかとおもったんだ」
「ん?」
「・・・がケガして帰ってきたとき。血なんかもう見慣れちまったはずなのに、黒いスーツ着ててもわかるくらいにの足が真っ赤になってるの見て、一瞬ホント、ざあって血の気がひいた」
眉を寄せて、そのときのことを思い出したのかぶるっと体をふるわせる。ロマーリオ自身はその様子を見てはいなかったが、確かに付き添っていたやつにかなりひどかったと聞いたし、が歩いたとおりに血のあとがてんてんと残っていたのも、着ていたスーツからいつまでも血のにおいが消えなかったことも知っている。やっと包帯が完全にとれたのがわずか二日前だったから、ディーノが口調を荒げたのも無理はなかった。
「今までにないくらい心配したんだぞ。そりゃ命には別状なかったさ、だからもああやって心配しすぎだって言うんだろ。けどそういうことじゃない、俺だけじゃなくてみんなにあれだけ心配かけたんだ。なのにちっとも懲りないで、俺のこと卑怯だとかへなちょこだとか言って・・・なあ、俺が悪いのか?」
窓の外へ向けていた顔をばっとロマーリオのほうに移し、その口調はどこか切羽詰っていた。ロマーリオはキャラメルをまたひとつ口に放り込んで、ディーノの目を見る。
「まあ、あれだ、は、」
「・・・くちゃくちゃしながらしゃべるのやめてくれ」
「お、悪い。・・・は要するに、はやく一人前になりたいんだろ。ボスに認めてもらいたいんだ」
「・・・・・・あんなケガしてくるようなやつ、認められるわけないじゃないか」
目元をふせてディーノはつぶやくように言った。その声からはさっきまでのいきおいがだいぶ削られていて、どこか沈んでいる。
「そこは同感だがな、まだガキだ。怪我・・・というよりは死だな、を恐れて背を向けるなんてことは不名誉、もってのほかなんだよ。あいつの場合自分ひとり女だから、余計にヤロー共に追いつかねえと、ってプレッシャーもあるんだろ」
「でも俺は、にそんなこと求めてない。他の連中と同じようにしろとか、そういうのだって言ったことねえよ」
「ああそうだ。そしてやつらだって、そう簡単に命を落とせるわけじゃない。だからの勝手な思い込みなんだよ、言い方は悪いけどな」
ロマーリオがごくりと口の中のキャラメルを飲み込む動きを目の端にとらえながら、ディーノは額をこつんと窓にあてた。ロマーリオの言うことには一理ある。そしての言わんとするところがまったく理解できないわけではない。失敗を重ねて、失望されるのが怖いのだろう。自分にだってそんな時期がすこしはあったから、を一概に責めることもできないかもしれない。けれどそういうふうに思われることは、自分が信頼されていないような気がして、それはそれでディーノにはつらいものがあった。
「どうしたらいいんだろうな」
「仲直りか?」
「ちがうって。どうしたらが無茶すんのをやめさせられるのかなって話だよ。だって俺がいったって、あいつ余計に興奮するだけで」
「ボスも引かないもんな。のことになるとヤケに頑固だ」
「・・・おまえ、もしかしておもしろがってんのか?」
いまさら気付いたディーノのいぶかしげな視線をさらりとかわしながら、ロマーリオはキャラメルをディーノに差し出した。首をかしげるボスに、人生の先輩として、にやりとした笑みを浮かべながらアドバイスを授ける。
「一言いってやれ。お前が心配で仕方がないんだ!・・・って」
「だ!・・・・・・誰がいうか、そんな恥ずかしいこと」
奪い取るようにキャラメルをつかむと、ディーノは赤い顔を隠すようにそれをぱくりと口に放り投げた。
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ロマーリオばっかりでる・・・
(2007.6.11)