たとえばここでいきなりキスしてしまったりして。そうしたらはどう思うだろう。


 にとって自分はきっと、仲の良い幼なじみで、兄のようで、弟のようで、よき相談相手であり、悪友であり、親友であり。ようするに「好き」とか「恋」とか「愛」とか、そういう空気の感じられない存在にちがいない。そして、にそんな印象を植え付けたのはほかならぬ自分自身であり、それに甘んじて好きなだけのそばにいたのもまた自分だ。たとえば授業の一環で、男女のペアを作らなくてはならなかったときとか。そういうときだけ、スザクはにとって「男」になれるのだ。けれど自分はそれを良しとし、都合のいいときだけ・・・なんてを責めたことなどない。がいの一番に自分のもとへ駆け寄ってきてくれるのが、なにごとにも変えられないくらいにただ嬉しかったのだった。そんな彼女は幼い頃からこうしてある程度成長している現在においても、スザクに下心なんて微塵もないと信じきっているからこそ、彼の部屋で二人きりというこんな状況のなかでも、気持ち良さそうに寝息をたてるという無防備な姿を晒してくれており、そしてまたがそこまで心を許してくれているのがスザクにはひどく嬉しくもあり、悲しくもあり、複雑な心境になってしまう。わがままで自分勝手だってわかってはいるけれども、が自分に心を許してくれているのはそのままで、さらに男としてみてくれたらなあ、なんて、都合のいい転回を夢見てみたり、けれどスザクの場合はどうしたらそれを実現できるのかをも本気で考えるのであって、その結果がさっきの案だった。いくらなんでもそこまですれば、は否が応でも自分の抱く気持ちを理解するだろう。これからはこんなふうに寝顔を晒したりもしなくなるかもしれない、それどころか距離を置かれたりするかも。けれど今のスザクにはそういう先のことはどうでもよくて、ようするにどういうことかといえば、ただ無性に吸い付いてしまいたいだけになっていた。


 無防備にもほどがあるというか、ご丁寧にもスザクのベッドで眠っているのすこし傾いた顔を上に向かせて、ベッドに腰掛けるととりあえずはじいっと眺めてみる。さっきまで溢れ返りそうになっていた吸い付きたいという衝動が、の顔をみているとなんだか大人しくなってくるのは、きっと長年自分を律してきていたせいなのだろう。それだけスザクはの前で自分を押さえ込んでいた。小さい頃はともかくとして、思春期はほんとうにつらかったなあと思う。すこしずつ、ゆっくりと、けれどはっきりと確かにきれいになっているをいちばん近くてみていながら、好意を持っているのを微塵も感じさせないなんて。賢いルルーシュはもちろん、知っていたわけだけれど。


「・・・、」


 声に出して名前を呼んでしまった。目を覚ますだろうか。さっき触っても起きなかったから、これくらいなら問題ないか。額にかかる前髪をはらうようにそっと撫でて、指先を頬まですべらせた。それだけの行為にも鼓動が速くなっていくのが自分でおかしい。だってこんな、こんな気持ちでに触れたことはなかったから。


「・・・・・」


 あと数センチというところまでゆっくりと顔を寄せて、けれどそこから先が進まない。本当にいいのだろうかとか、結局が起きなかったら自分の気持ちに気付いてもらうのは無理だし、だとか、冷静さを取り戻していろいろと考えてみる。
 やっぱり、やっぱりこのままのほうが、自分のためにものためにも、いちばんいいのかも。
 行き着くのはそんな考えで、スザクはゆるゆると身を引いた。ばかだなお前は、って、ルルーシュなら言うのだろうか。でも僕もそう思うよ。苦笑を浮かべてを見下ろすと、スザクが動いた空気を感じ取ったのか、すこしだけ身じろいで、それからふうわりと、ちいさく微笑んだ。ように見えた。


 それがなんだか、いいよ、って、言われてるみたいで。


 気付いたらスザクの唇にはやわらかい感触が残っていて、ぼんやりと目を開けたが不思議そうにスザクを見た。
 僕らの関係は、きっと今日からはじまるのだ。














白。













――――――――――
これからもよろしくおねがいいたします!


(2007.12.17)