gray:
廊下の先にやっと金色のそれが見えて駆け寄ろうとしたアレンの足は、数歩行っただけですぐにゆるまった。「うわ、」と思わずつぶやいて、困ったようにため息をつく。しばらく躊躇してのろのろと一歩二歩、それから意を決したふうに前を見て、駆け寄るのではなく、多少早足でちょうど相手に追いつくくらい。目の前の背中に向かって声をかけた。
「ティムキャンピー。どこに行ってたんだ、さがしたぞ。・・・すみません、またティムがつきまとったりして」
、と呼びかけられた少女はその言葉に振り返ってアレンを視界に入れると、ううん、と微笑んだ。
「全然気にしてないよ。頭に乗ってるだけだし。もしかして気に入ってもらえてるのかな?」
「・・・ええ、たぶん、相当」
あいまいに返事をして、ほら行くぞティム、と声をかけても、当のゴーレムはつーんとそっぽを向いてしまう。しっぽをつかんでの頭から引き摺り下ろしてやりたいのをぐっとこらえて、もう一度言った。
「行くぞ。ティム。」
「・・・いいよ、アレン、わたし面倒みてるよ?あ、それとも、これから任務とか」
「ああ、いえ、そういうわけじゃないんですけど。・・・まったく・・・余計な気ばっかり回すんだから・・・」
「なにが?」
「い、いや」
慌てて手を振ってごまかしつつ、ティムキャンピーを睨みつける。なんだかご機嫌に見えるのは絶対に気のせいなんかじゃないのだ。妙なところで気位の高いこのパートナーは、いっちょまえに自分に協力しているつもりでいる。自分がに、すくなからず好意を抱いているのを知って。
ぱたぱたぱた、と嬉しそうにのまわりを飛び回るティムキャンピーは、おそらくはアレンに協力するうんぬんを除いて、個人的にも彼女にずいぶんなついているのだろう。そんな気持ちを素直に表現するかのように、の頭だけではなくて、肩や鼻の先だとか、調子にのってふらふらしては思わせぶりにたまにアレンの目の前にもちらりとやってくる。それを手で払いのけると、特別気にしたようでもなくて、むしろ得意げにふふんと笑う感じでしっぽを振りながらまたの頭にちょこんと乗るのだ。なんだよコイツ。
「・・・重たくないですか?。ティム、どんどん大きくなってるみたいなんです」
「そうなの?毎日見てると分からないなあ。成長期なの、ティムちゃん?」
「・・・・・・・・・あれ?毎日?」
「うん?」
が首をかしげると、その頭の上に乗っているティムキャンピーも同じようにかたむいた。いや、それはどうでもいい。
「・・・毎日おじゃましてるんですか、ティムは」
「ああ、うん。時間はいろいろだけど、毎日遊びに来るよ。おとといなんか一緒にお風呂入ったもんねーティムちゃん」
「おおおおおおお風呂!?」
衝撃的な事実に目をむいてアレンがティムキャンピーを見ると、ぷいと顔を逸らした。おおおお前なにとお風呂ってそんないつの間にっていうかそれはやりすぎじゃないか!?だとかいろいろな考えが頭のなかをぐるぐる回って、口を開け閉めしながら呆然としていると、はあ、と思いついたようにじいっとアレンを見た。
「・・・・・・」
「・・・え、な、なんですか」
「・・・・・・ティムちゃんのメモリー見ないでよ?」
「なななななななに言ってんですか!?見ませんよ見ないに決まってるじゃないですか、な、なに言ってホントに」
「そんなに必死に否定されると・・・。ごめんなさい冗談です。アレンはそんな人じゃないもんね、ラビじゃあるまいし」
「ラビ!?」
うわあ、とアレンは絶望的な表情になると左右をものすごい勢いで確認し、必死の形相での肩をつかんだ。驚いたが反射的に身を引こうとしても、力が強くて動けない。
「、絶対ラビに今のこと言ったらだめですよ!?わかってますねラビはラビなんですからね!確実にメモリー見ますよどんな手を使ってもラビなら!」
「そ、そうかもね、うん、気をつける・・・」
「ああ、まさかどこかで聞いてやしないだろうな、ティムお前もだぞ、絶対、なにがなんでもラビに話すなよ、いいな?」
「大丈夫でしょ、おしゃべりできないし・・・」
「はラビを見くびってます。ラビのパワーすごいんですよ、そういうことに関してはもうはるか彼方からの情報でさえキャッチして、山よりも高く海よりも深い情熱を注ぎ、完璧にやり遂げる男です。ほんとにすごいんですから」
「アレンてラビのこと買ってるんだね」
妙なところに感心したは、むしろ楽しそうに笑ってアレンの手に触れた。そこでやっとその肩に手を置いたままだったと気付いたアレンは慌ててぱっと離す。先ほどとは正反対の行動がまたおかしかった。
「心配しなくてもラビには絶対言わないよ。わたしだってタダでラビに良い思いをさせてやる気はないですもの」
「ま、まあ、そう・・・ですね」
「・・・・・・・・・・・・アレンならいいけど」
「えっ、」
「なんでもなーい。行こうかティムちゃん」
「い、いやあの、え?よく聞こえなかっ・・・ちょっとってば!」
――――――――――
(2007.11.12)